2016年10月16日日曜日

レビュー企画 第6回 報告ーーー京都学生演劇祭の「需要と供給」


 京都学生演劇祭2016が終演しました。御来場くださった皆様、ご声援くださった皆様、ご協力いただいたスタッフの皆様、誠にありがとうございました。
 先日、左京西部いきいきセンターでの精算会・振り返り会を以て、京都学生演劇祭2016もレビューされる側の、過去の公演となりました。レビュー企画では次年度以降また他地域での学生演劇祭の運営の参考となることを目指して、振り返り会における議論の記録を残したいと思います。ただし、本記事にあっては小生の私見が多分に含まれていることをご容赦ください。

 副題「京都学生演劇祭の「需要」と「供給」」には、「需要と供給」という視点を持つことが重要であるとの小生の問題提起があります。京都学生演劇祭の地域的特性として、出演団体の多様性をあげることができます。出演団体が多様であるということは、それを観劇する観客も必然的に多様なものになるでしょう。この観客、団体双方の多様性に対応することが常に運営を担う実行委員会には求められます。
 イベントとしては赤字でした。追加徴収が発生し、団体の負担は増加しました。予算の削減などについては今回も隔週の定例会において盛んに議論されてきました。毎年、建設的な議論の上で、解決策を講じる必要があるでしょう。ですが、それには限界があります。最も問題視されるべきなのは、やはり動員目標を達成できていないということです。では、動員を増やすようにはどうすべきなのか。この点は演劇祭のみならずあらゆる劇団が試行錯誤を重ねているところでしょう。
 先述のように、演劇祭の観客は多様です。この多様な観客の需要に対応するために、供給体制を多角化するという解決策は安易であり、リスクもあります。というのは、供給体制を多角化することに耐えられるだけの実力が運営側に蓄積されているかどうかについては、疑問を持たざるを得ないというのが現状なのです。供給体制の多角化というのは、具体的に言うと、チケット料金の設定をより細分化することや、料金の支払い方法を当日精算に限ることなく手売り・当日精算・銀行口座振り込みなど複数用意するといったものがあげられます。団体毎に得意とする売り方は異なるでしょう。それらすべてに対応し、拡散する需要をすくい上げる。そのような方法が果たして現在の運営(特にこれは制作が担う部分ですが)にとって可能なのでしょうか。当日になってトラブルに見舞われる事態は何よりも避けるべきです。今公演でも、当日になってからのトラブルであるブロックの上演が遅れるという事態がありました。そのようにしていくつか取りこぼしながら何とか持ちこたえているという現状にあって、さらなる多角化は危険な選択肢であると言わざるを得ません。
 「各団体がもっと観客を呼ぶ意識を高める」などという意見は愚の骨頂です。今回の振り返り会では、モチベーションを高めるためにチケットバックを増やす、チケットノルマを設定するといった建設的なアイデアも議論されました。ですが、そもそも観客を呼べる限界がすでに見えている団体はありますし、「できる限り、多くの人にみてほしい」とすべての団体が考えているという前提があるとすればこれ以上「意識が高まる」ことはありません。「意識改革」の議論は何の意味も持ちません。
 より多くの観客を集めるための方法に正確な答えはありません。ですが、一つ新しい観点をあげるとするならば、演劇(特に学生演劇)に触れるはずがない層をいかに呼び込むのかという点であると小生は考えます。単にチラシをばらまくだけでは、SNSに淡々と情報を公開するだけでは、娯楽が満ちあふれる現代にあっては多くの人々にスルーされてしまうでしょう。団体ではなく観客にとっての価値と魅力を見出し、理解した上でそれらをどのようにして、アピールしていくのか。そう考えると、何よりも前提となる価値と魅力を見出し、理解する必要があります。レビュー企画はその前提を用意するための企画です。
 また今公演では「架空予約」対策に万全を期すための方法に議論が集中しました。議論の結果、「予約の際に住所といった個人情報を入力させる」という方策をとりました。これは今公演における大きな反省点でした。個人情報の取り扱いは一般に警戒されるものであるという考えが欠如していたのです。このことについては提案した運営にも承認した全団体にも責任があります。次年度以降、架空予約を防止しつつも動員を増やす、観客が来場しやすい方法を議論する上で、間違いなく記録しておくべき点であることは自明でしょう。
 供給側の質に根本的に関わる舞台/会場についても、議論がありました。去年に引き続き、会場は吉田寮食堂でした。京都学生演劇祭は既にART COMPLEX 1928、旧立誠小学校を経て二度の会場変更を経験しています。吉田寮食堂にも演劇祭の会場としてのデメリットはあり、次年度以降も吉田寮食堂が必ず使えるという保証はありません。常により演劇祭にとって好条件な会場の可能性を模索した上での選択であるべきです。
 具体的な問題として、役者の足下が見えにくいという問題がありました。再三舞台監督・運営からの忠告はあったものの、多くの団体が特別な対策をとることなく本番を迎え、審査員の講評でも足下が見えにくかったことについて指摘がありました。各団体の上演の質を高めるためにも、この点について議論する必要があるでしょう。
 また振り返り会では、現在のリハーサルの制限時間では上演の質を高めることに限界があるとの指摘もありました。リハーサル時間は全団体一律で二時間です。この時間内で絵づくり、場当たり、音響、ゲネといった通常一週間で行う作業を終わらせなければなりません。無論長くすればそれだけ質が高まる可能性はありますが、劇場を抑える期間、管理スタッフの人件費といった固定費が増大します。運営にはリハーサル時間を極大化する努力義務はありますが、団体側にも設定された時間内で質を高める作品づくりをめざす義務はあります。団体、運営が互いに納得した上での時間設定であるべきです。さらに、リハーサル時間は参加団体の数によっても変動します。毎年議論するという時間を削減するならば、参加団体に制限を設けることが明確な解決策ではあります。ただ、そこまで「強気」になれるほど京都学生演劇祭の地位は高くないというのが現状でしょう。
 出演団体推薦枠については、各団体が推薦理由を添えてのものでしたが、基準が揃っていないとの指摘がありました。各団体が他団体をどのように観たのか、他では見られなかった評価を見ることができたことは収穫ではありました。基準が揃っていないこと自体は問題ではありません。基準を揃えないことに演劇祭としての意図があったのかどうかが議論すべき点です。
 出演団体推薦枠は先例がありません。全国学生演劇祭との関わり(通常の枠と「前年度優勝枠」そして動員の増加等を目的とした「開催地枠」)で、京都は三枠の出演枠が与えられていました。この三枠目を京都学生演劇祭としてどのように処理するのかについては当初より盛んに議論されました。一五団体中全国に進める団体が三つあるのは「多い」という主観的な感覚をぬぐい去ることができなかったのです。他の地方の演劇祭にも意見を求めましたが結局のところは京都学生演劇祭の判断に委ねられることになりました。定例会では、来年度以降、三枠が与えられた場合に我々のとる姿勢が先例となるという指摘から三枠目は放棄せず、何らかの方法で選定するということになり、最終的に今回の推薦理由を添えた上での出演団体推薦枠ということでまとまりました。一つの地方で三枠という状況は多発する可能性は低いですが、全くあり得ないことではありません。各団体の自主性を重んじるという今回の方向は先例として機能することが期待されます。

 以上、京都学生演劇祭2016の振り返り会における議論の一部を報告しました。これ以外にも改善すべき点あるいは改善された点は多く見られます。現在の立ち位置を見極めた上で、今後さらなる高みを目指して運営・団体ともに精進し、価値あるイベントとして認められる不断の努力が求められるところです。

<京都学生演劇祭2016より読者の皆様へ>
 レビュー企画では、京都学生演劇祭に過去に参加した経験のある方のインタビューや寄稿を募集しています。一人でも多くの方にご意見・お話をお伺いしたく、是非ともご協力をお願いいたします。

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京都学生演劇祭企画スタッフ
劇団なかゆび主宰
神田真直

2016年10月1日土曜日

第五回 レビュー企画 点から線へ ーー第二回実行委員長、玉木青


はじめに
京都学生演劇祭2016が先日終演した。多くの人との出会い/交流は小生にとって価値あるもので、演劇祭を支えてくれたすべての人に感謝しつつ、この価値あるイベントが今後も継続されるためにレビュー企画はある。小生の怠惰のなすところにより、前回から期間を大きく空けたことについてここでお詫び申し上げたい。
    本企画の予定としては、2月に開催される全国学生演劇祭までに、この企画の終了と「理念の設定(明文化)」といった次段階への移行を目指す。
    第五回は玉木青氏。京都学生演劇祭2012の実行委員長である。点から線をつくる営みの困難さは当時既に認識下にあった。2016年、我々が直面する問題の始原を振り返っていこう。

点から線へーーー継続的な活動の障壁

 京都学生演劇祭は初めから継続的な開催を志向していた。だが、このことには障壁があった。すなわち、学生が学生である期間は限定されており、年を越えた継続的な活動はことは困難である。そうなると必然的に発起人、沢が担う部分は多くなる。玉木は、第二回の京都学生演劇祭の実行委員会で前年を知る数少ない学生の一人であった。現在も、前年度から継続して運営に携わる者はごく少数である。
 第二回は、「マニュアルというほどのものではないが、第三回に向けて引き継げるものをつくろうという問題意識は存在していた。」レビュー企画につながる問題意識は第二回には既に生まれていたのである。そして、引き継げる体制を整備するための方策として「サークル化」が挙げられていた。
 演劇祭の実行委員会は、開催後は解散状態となり限られた委員と沢が次年度への引継を行い、繋がれてきた。活動拠点と呼べる場所はなく、前年の開催から次年の開催までは宙吊りの空白期間となる。開催の熱気もここで冷え込んでしまう。
     京都大学には11月祭を運営するサークルがある。文化祭を運営するサークルは多くの大学にある。先例も多い中で、サークルのような組織として活動していくことで、引継などで、宙づりにされることもなくなるのではないか。だが、この問題意識は問題意識に留まり、実行されることも以降議論が深まることもなかった。
 年に一度のイベントだけではモチベーションを保つことが困難である。演劇祭終演後にも活動を継続する企画を立て、実行する必要があるだろう。このことについては、合田団地氏へのインタビューで新たな可能性が見いだせたので、氏の回に譲ることにする。
 玉木は京都大学を拠点に活動する劇団愉快犯の創立メンバーの一人である。創立で培ったものを活かして、演劇祭を長として率いた。より正確に言えば、創立で培ったものしかなかったといってもいい。だが、それは玉木に限ったことではない。沢も玉木も、誰もが限られた情報、技術からどうにかして、やっていく他ないのである。だからこそ、後代に残るものを少しでも増やしていく不断の努力が必要なのである。


京都学生演劇祭を支えるスタッフ

 演劇祭のようなイベントには、運営だけでなく設営等を担うテクニカルスタッフの存在が必要不可欠である。第2回も手探りの部分が多かったという。当時も今も、テクニカル面でのスタッフに関して運営にとってのストレスは殆どないといって差し支えないだろう。複数の団体それも普段は大学の施設を独自に受け継がれた方法で使用する団体が、一つの劇場に集まり、上演することの困難を乗り越えられてきたのは、実は舞台監督、照明統括、音響統括といった経験あるテクニカルスタッフの支えがあってこそのものである。彼らの中には第1回から今年の6回目まで演劇祭に関わり続けている者もいる。彼らの担う役割は特殊なものであり、沢と同様に他の誰かに容易に代行できる役割ではない。玉木は「奇跡的な人材に支えられて成り立っているところがある」という。
 テクニカルスタッフについて、学生で補うことはできないかという議論があった。だが、それは全く現実的ではない。テクニカルスタッフは安全面に関わるところがあり、軽視すれば取り返しの付かない事態も想定できる。それでも、京都学生演劇祭2016では少しでも学生で補うことができるよう当日の音響・照明の管理は学生で賄うことになった。これには予算を抑えるという側面もあるが、それ以上に学生が担う幅をできる限り増やすべきであるという運営の方針もあってのことであった。テクニカルスタッフが軸を固め、学生でも担える部分は学生が担うというのが現状である。
 演劇祭におけるテクニカルスタッフの現状はベストかと言えば、ベストとは言い切れないところがある。具体的個人に依存することのリスクは無視できない。「その人」が何らかの事情でいなくなった事態の対応が難しくなるからである。沢の存在同様に、具体的個人に依存するよりはある程度システム化しておく必要があると玉木は言う。受注する側にしっかりしたものがあれば、このリスクは軽減できる。つまり、「何をしてもらいたいのか」を明示できる体制を構築する必要がある。
 参加団体、実行委員会、テクニカルスタッフなど演劇祭は多くの人が様々な仕方で関わっている。沢を筆頭に、年次毎に入れ替わる学生たちによって混沌の中で運営されてきた。今回のインタビューでは運営についてそれもかなり実務的な問題が俎上に載った。実行委員会はすべてを統括する立場として、テクニカルスタッフのあり方についても見つめ直す必要があるだろう。


玉木青
Twitter @tamakisei
1991年、京都市・岩倉生まれ。2010年、京都大学在学中に劇団愉快犯を設立。京都学生演劇祭、『水曜どうでしょう』ディレクター陣による講演会などを企画・運営。出版社勤務を経て企画編集、執筆、地域活性、文化創造のための居場所、イベントづくりに参画する。10月22日、23日に元・立誠小学校にてショーケースイベント「よろしくご笑覧ください」開催予定。

<京都学生演劇祭2016より読者の皆様へ>
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京都学生演劇祭企画スタッフ
劇団なかゆび主宰
神田真直