2016年8月13日土曜日

京都学生演劇祭の「記憶」

第0回 学生演劇祭の「記憶」




 京都学生演劇祭は、彼から始まった。
 演劇祭発起の契機には、2010年9月、沢が所属する京都ロマンポップ第10回公演「人を好きになって何が悪い」(会場:ART COMPLEX 1928)でのエキストラ募集があった。この公演のエキストラは大人数が必要で、この人員を京都の学生劇団から募ることになったのである。学生劇団の新歓公演を観に行き、直接交渉を進めていったという。結果、様々な学生劇団から数多くの参加者が集まったのである。ここでの交流が、沢に学生演劇祭のアイデアをもたらした。

「京都で、役者だけやってても何にもなんねえな」

     このまま漫然と役者を続けていくだけでいいのか、役者としての活動以外に、京都演劇界の中で何か自分にできることはないか。彼はそんな欲求に駆られていた。京都演劇界を盛り上げたい。個人間の接点にとどまることなく、団体間の接点をつくって、京都演劇界の発展に貢献することはできないか。そして、同公演の稽古と同時進行で、京都学生演劇祭実現に向けて動き始めた。といっても彼は役者としての経験しかなく、企画を立ち上げるといったスキルは持ち合わせていなかった。そこで、当時の知人で、中岡の力を借りることとなる。中岡の企画書は、6年経過した今でも受け継がれている。また、京都ロマンポップのメンバーの協力も大きかったと彼は振り返る。

 2010年。京都学生演劇祭はこうして動き始めた。
 当時、台風の目となったのは、立命館大学の学生劇団たちであった。ここで意味されるのは中岡も、沢もそれぞれ立命館大学の劇団月光斜、劇団月光斜TeamBKC出身であるということだけではない。劇団西一風出身の山崎 彬による「悪い芝居」は関西演劇界で存在感を強め始めていたし、先述の京都ロマンポップ、劇団ZTONなど立命館の若い劇団が隆盛した潮流があった。このような潮流が今日に続く演劇祭の萌芽の土壌を整備し、沢がそこに息吹を与えたのである。
 演劇は複雑な芸術である。多様なスキルを持つものが多角的に創作に関わる。決まりきったスタイルはなく、劇団毎の運営も多様である。さらに学生劇団の劇団員は3、4回生になると基本的に引退や卒業として劇団を去っていく。短いスパンで劇団員が入れ替わる。勿論、劇団のノウハウは少なからず蓄積されていくであろうが、これも忘れ去られるもの、慣例として受け継がれる程度のものにとどまる。「記憶」ということになると、それが恒久的に残されることは全くないといって差し支えないだろう。毎年、グラデュアルに「記憶」が更新されていく。長い歴史の中で、劇団の作風が大きく変わった劇団、劇団員の急激な増減を経験した劇団も少なくない。学生劇団は「記憶」が残りにくい性格を帯びているのである。だから、長い年月にわたる試みを続けていくことは、学生劇団にとってハードルの高いものである。そこに複数の学生劇団が絡むとなるとハードルの高さは一層上がる。このような困難さに抗い、複数の学生劇団が一堂に会する企画が、毎年絶えることなく続けられてきたことは、驚くべき事実である。

 そこで、京都学生演劇祭の「記憶」を書き留めることを試みたい。京都学生演劇祭は今、沢の手から少しずつ離れようとしている。この画期的な試みが絶えることなく、半永久的に続けられていくにはこれは必要なことなのである。では、沢の手から離れた演劇祭の初期の「記憶」も忘れ去られ、グラデュアルに更新されていくべきなのであろうか。いや、そうではない。この画期的な活動の記憶は、書き留められるべき記憶である。
    まだまだ演劇祭は過渡期にある。参加する学生劇団の顔ぶれは毎年変わり、運営のノウハウも学生劇団同様、生まれては消え、消えては生まれを繰り返している。演劇祭が、学生劇団にとって必要不可欠なものと、常に熱狂に満ちたものとするための足がかりとして、この「記憶の書き留め」は重要な役割を果たす。ここで過去を振り返ることは、決して懐古主義を意図するものではない。これは、温故知新の精神の下、演劇祭自身が親である沢大洋の手を離れ、自立していくための、アイデンティティーの確立を意図しているのである。
  

京都学生演劇祭企画スタッフ
劇団なかゆび主宰
神田真直

※本記事は、発起人の沢大洋へのインタビューを元に作成しました。


<京都学生演劇祭2016より読者の皆様へ>

 今回のレビュー企画では、京都学生演劇祭に過去に参加した経験のある方のインタビューや寄稿を募集します。一人でも多くの方にご意見・お話をお伺いしたく、是非ともご協力をお願いいたします。
連絡先は、こちらです。
Mail:kst.fes@gmail.com
電話番号:08061479786

〈京都学生演劇祭2016 公演情報〉

8/31(水)~9/5(月)
@京都大学吉田寮食堂
1ブロックのチケット料金(前売)
学生:1200円 一般:1700円

ご予約はこちらへどうぞ↓
https://ticket.corich.jp/apply/75391/

詳しい情報はHPへどうぞ↓
http://kst-fes.jp/

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