2016年8月15日月曜日

レビュー企画 第2回 演劇祭によせてーーー寄稿、作道雄(月面クロワッサン)



第2回 演劇祭によせてーーー寄稿、作道雄(月面クロワッサン)
 (はじめに)
 今回の企画では取材をもとにした拙文を主に掲載する予定です。ですが、時間が合わず寄稿文という形でご協力いただく方もいらっしゃいます。作道雄。彼の文章のあまりの勢いに私は何ら手を加えることができませんでした。時を経ても、まるでつい昨日のことかのように感じさせる語り口からは、彼の冷めやらぬ情動がうかがい知れます。彼の想いに敬意を表し、一切改変することなく掲載することにします。たった一つの催しが、一人の人間を作家へと変貌させ、彼の心を鷲掴みにして離さない。彼の記憶ほど、鮮明な記憶はないのではないでしょうか。(京都学生演劇祭企画スタッフ・劇団なかゆび主宰/神田真直)

演劇祭によせて
 六年前、劇団を始めたいと思っていた僕は、きっかけを探していた。どちらかというと、精神的なきっかけだ。そこにまさに渡りに船、演劇祭の立ち上げの話を聞いた僕は、この好機を失ったら、人生を変える勇気をすんなりと出せることなんてこの先出来なくなるんじゃないかと直感で思い、次の瞬間に沢さんとのアポを取りに動いた。
 その決断、衝動が今に一本線で繋がっている。
 武者震いをしていた。何かを始めようとする時の武者震い。今は利用できなくなったアートコンプレックス1928で、身体いっぱいを使ったコメディを作るんだ、全団体の中で一番めくるめく劇をするんだ、ということで頭がいっぱいだったことを、今でも手に取るように思い出せる。
 そして脚本作業や稽古など、作劇の過程では素直に興奮していたし、手ごたえもあった。結果、所謂ビギナーズラックというやつで、観客賞もいただいた。打ち上げで沢山の人に褒められ気分を良くしたり、辛辣な劇評で腹を立てたりした。今では少し感覚として遠い、初々しさが自分には確かにあった。
 『これで生きていこう』
 と、演劇祭の終わったその日に四条河原町の交差点で思った。先人たちが築き上げてきた演劇史に自分も自分なりのやり方で名を連ねるんだと思った。
 沢さんからは野心家だ、と評されたが、野心ではなかった。ただただ、嬉しかった。稽古場で台詞を役者が言うと、急に命が吹き込まれたようになることが。音響・照明で劇場自体が生き物みたいに変わることが。生きにくい日常が、舞台を作っている途中は、自分が神さまになった気持ちで細部にまで没頭できることが。
 しかし同時に、自分の中に、演劇そのものへのクエスチョンマークがあったことを、今ならば確信を持って認めることが出来る。モヤモヤしたものが僕の中には当時から常にあった。よくわからない不安感。
 それは日を追うごとに肥大化し、公演を打つたびに、どんどん自分の作るものがつまらなくなるような感覚に陥った。
 2011年の冬、三谷幸喜さんのシットコムに憧れていると、アフタートークでお越しいただいた柿喰う客の中屋敷法仁さんにお話したら、携帯電話が出現して以降の時代のシチュエーションコメディを発明しないと、三谷さんにはなれないと(いった趣旨のことを)言っていただき、目が覚めた。目の前に壁がはじめてそびえたつのを感じた。
 以降、演劇(会話劇)と真摯に向き合ってみるも、どうすれば良いのか思いつかない。東京から京都に来ていたマームとジプシーをアトリエ劇研で観て、泣いた。自分の作るものに関しても、次第に演劇よりも自主制作映画を誉められるようになった。僕の不甲斐なさから劇団員たちは離れていった。演劇に振り回され、ボコボコに殴れた気持ちになって、僕は演劇活動を休止させた。
 今でも、先述の、演劇祭が終わったその日の爽やかさと不安感と同じようなものが身体と心を取り巻く日がある。そのたびに、僕は演劇祭のことを思い出す。きっとこの先どこまでいっても、演劇祭が僕の原点だ。
 昨今、京都演劇界から少し離れていても、劇場の相次ぐ閉鎖や、演劇人の人口減少、強力なリーダーシップの不足など、現状は耳に入ってくるし、切ない気持ちになる。
 演劇祭出身者であり、元劇団員の小川晶弘、西村花織、丸山交通公園、横山清正は引き続き京都で戦っている。彼らが出演する公演を時折見に行くが、中には本当に面白いと思えるものもある。あくまで僕の主観だが、作品も人材もきっとちゃんと揃っている。
 しかし、状況が悪化しているとなると、何かが決定的に足りないのだろう。有能なプロデューサーの存在なのか、マスコミとの距離感の問題なのか、それは僕にはわからないが、京都学生演劇祭や全国学生演劇祭という箱、装置が機能し続け、そこから何かが、誰かが出てくることを願ってやまない。
 感情的な文章になってしまったが、感情的に語ること、思い出すこと、意味を見出すこと、伝説を作ること、これが今の演劇祭には一番必要だと思う。その結果、僕のような個人的な感情を持つ演劇祭関係者、卒業生たちの感情まみれの渦が、今はまだ何か認識できなくても、いずれ共有され、どこか一点で決壊し、それを受け止め引っ張る誰かがいて、やがて大きな視覚的変化を迎えるのではないか。
 みんな、演劇祭をもっと利用すべきだ。熱く熱く語るべきだ。本音で、かっこつけずに語るべきだ。それが今一番足りていない。
 僕自身は、あんなに楽しくて、悔しくて、自分の原点たるものを作ってくれた京都学生演劇祭に感謝し、出来るだけたくさんの人にこの思いを伝えていきたいと思っている。
 今年の大会が、無事つつがなく終わりますように。成功をお祈りしています。

              了

<京都学生演劇祭2016より読者の皆様へ>
 今回のレビュー企画では、京都学生演劇祭に過去に参加した経験のある方のインタビューや寄稿を募集します。一人でも多くの方にご意見・お話をお伺いしたく、是非ともご協力をお願いいたします。
連絡先はこちら
Mail:kst.fes@gmail.com
タイトルに「レビュー企画(お名前)」と明記願います。

〈京都学生演劇祭2016 公演情報〉

8/31(水)~9/5(月)
@京都大学吉田寮食堂
1ブロックのチケット料金(前売)
学生:1200円 一般:1700円

ご予約はこちらへどうぞ↓
https://ticket.corich.jp/apply/75391/

詳しい情報はHPへどうぞ↓
http://kst-fes.jp/

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