2016年8月14日日曜日

レビュー企画 第1回 滋賀からの挑戦ーー脇田友



 レビュー企画、京都学生演劇祭の「記憶」。軌跡を辿る旅が始まった。 二〇一一年、京都学生演劇祭(以下、演劇祭)で最初の大賞に輝いた劇団テフノロG、そして当時の演出だった脇田友。現在は、京都でユーティリティプレーヤーとして、舞台監督、グラフィックデザイン、 イラスト、写真、 俳優、演出などその活動は多岐に渡る。京都学生演劇祭での体験は確実に、以降の彼の演劇活動に強い影響を及ぼした。当時の心境、演劇祭終演後の変化について聞いた。



京都学生演劇祭に参加することになったきっかけ

 劇団テフノロGの公演を観に来ていた沢大洋からの声かけがあったのは、二〇一〇年一〇月のことだった。これを受け、同公演の反省会の日、脇田は劇団員にこの話を持ちかけた。当時の演劇祭は2月。四回生でも卒業制作は終わっている時期ということもあり、満場一致で参加することになったという。成安造形大学は、男女比がおよそ3:7と圧倒的に女性が多い。それもあって学年問わず劇団テフノロGも女性が多い劇団である。劇団テフノロGは、この特徴を武器として、演劇祭に臨むことになる。

滋賀から京都へ挑むーーー地域格差

 脚本は過去に短編として上演した作品を改訂したものを使った。内容は非常に奇を衒ったものであった。このことには脇田を含め、劇団員は皆自覚的であったという。この戦略が果たして功を奏するのか。文化のまち京都で、近畿のアウター、滋賀からやってきた自分たちがどう受け取られるか。

「評価は厳しいだろう」

そう思っていた。膨らむ一方の不安を抱えながらの稽古の日々だったという。
 劇団テフノロGがある成安造形大学は、滋賀県大津市にある。当然、京都の大学とは地理的格差があることは否めない。脇田もこのことは実感しており、「ハッキリ言って京都の環境は 羨ましいくらい にめちゃめちゃいいと思います」と当時の演劇祭のインタビューで答えている。滋賀には劇場も少なく、数少ない同郷の劇団月光斜TeamBKCも琵琶湖を隔てている。

「もちろん、夏は琵琶湖で泳いで、冬は山でスキーしてっていう、 自然豊かでいい土地 なんですけど、アートはあんまりみられない。僕らは美大だからまだ情報は入ってきてはいたのですが」
「くっそーって思いながらね」

 京都を中心に活動する者たちは、彼らが感じる隔たりにリアリティを持つことは難しいだろう。演劇祭は、劇団テフノロGにとって滋賀と京都を結ぶ架け橋となった。

フリーペーパー「とまる。」

 当時、演劇フリーペーパー「とまる。」は強い力を持っていた。存在感を高めつつあった悪い芝居の特集を組んでいたのも、このフリーペーパーである。 この「とまる。」の編集をしていた高田斉がTwitterで劇団テフノロGを高く評価した。 その影響は、2ステージ目の集客に如実に出ていたという。このような強い影響力を持つフリーペーパーがあったことは、記憶に留めておくべきことである。「とまる。」については別の機会に譲るが、第1回の演劇祭で劇団テフノロGに起こったことはその影響力についての一つの例証である。

その後の脇田と劇団テフノロG

「演劇祭を終えて、個人的に変化はありましたか?」
「あります。あります。めっちゃあります。ガンガン人に言います(笑)」

 第1回の演劇祭終演後、個人として団体としてどのような道を辿ったのだろうか。脇田は卒業後も演劇を続けていく上で、経歴に箔がついたという。演劇祭には、それだけの力があるということである。脇田は演劇祭終演後すぐに卒業し、劇団テフノロGを去る。団体としてこれ以降の劇団テフノロGは、初代チャンピオンということからくる重圧に苦しんだようだ。その後も、演劇祭に参加していたが成績はあまり芳しくない。現在、脇田は劇団テフノロGに外部講師として関わっている。ある意味では、沢の演劇祭への携わり方と似通ったところがある。脇田も沢同様、自身がいなくても劇団が運営できるように仕組みづくりを進めているという。演劇祭発起人の沢と、演劇祭の初代大賞の演出とが同様の立場で現在も学生演劇に関わり、サポートしていることは偶然以上の何かを感じざるを得ない。来年の演劇祭を一つの目標として、また新たな一歩を踏み出そうと奮闘する劇団テフノロGとそれをバックアップする脇田。演劇祭に劇団テフノロGが滋賀から再び飛び込んでくる日が待ち望ましい。


現在の京都学生演劇祭

 脇田にとって演劇祭はどのように映っているのだろう。彼は観客、とくに一般の普段あまり演劇に触れることがない人々からすれば魅力にかけるのではないかと指摘する。同じ劇場で上演するだけで、均質化し同じ一つのものに見えてしまう。瀬戸内国際芸術祭や利賀演劇人コンクールといった 企画 は、土地の多様性とアートの多様性が結びついており、単なる アートフェス や賞レース以上の価値を創造しているという点で、演劇祭にも参考になる。彼は同時に 参加のための 初期費用が低いことや、 新規顧客の獲得 など、やる側のメリットも多いことも指摘する。また演劇人の観客としては、各劇団の個性、宣伝の仕方、厚みが見えるような売り込みが必要だという。特に普段は大学のキャンパス内で満足に活動できる団体が参加していることに彼は注目する。団体として何等かの目論見があるからこその参加であり、その目論見が何なのか、見えてくるともっと面白くなるはずである。

 今回のインタビューでは、演劇祭の魅力と可能性にとって、不足しているものと今あるものという二つの方向から見えるものがあったように思える。劇団テフノロGが戻ってくる日、演劇祭が賞レース以上の価値を持つ日を目指して我々も進んでいきたい。

※敬称は略させていただきました。
京都学生演劇祭企画スタッフ
劇団なかゆび主宰
神田真直

<京都学生演劇祭2016より読者の皆様へ>
 今回のレビュー企画では、京都学生演劇祭に過去に参加した経験のある方のインタビューや寄稿を募集します。一人でも多くの方にご意見・お話をお伺いしたく、是非ともご協力をお願いいたします。

連絡先はこちら
Mail:kst.fes@gmail.com
タイトルに「レビュー企画(お名前)」と明記願います。

〈京都学生演劇祭2016 公演情報〉

8/31(水)~9/5(月)
@京都大学吉田寮食堂
1ブロックのチケット料金(前売)
学生:1200円 一般:1700円

ご予約はこちらへどうぞ↓
https://ticket.corich.jp/apply/75391/

詳しい情報はHPへどうぞ↓
http://kst-fes.jp/


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